2008年09月05日
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「昭和30年代懐かしの東京」に掲載される「東京生命球場」? 「東京生命保険相互会社の運動場」?

Written By: 川俣 晶連絡先

 「新宿西口にあった東京生命球場」とは何か、という問題は、2008年1月6日に書いた「解決編・1951年5月に完成した新宿西口にあった東京生命球場の位置と理由を(ほぼ)確定!!」で一応決着しました。しかし、そのものずばり「ここが東京生命球場である」という事実を示す資料にはまだ出会っていません。

 さて、数日前、名前もメールアドレスも書かない人物より、以下のようなメッセージが送られてきました。

昭和30年代の懐かしの東京 監修正井泰夫 平凡社 ISBN4-582-44309

-5 という本の地図に「東京生命保険相互会社運動場ー野球場」と上空写真とともに掲

載されてます。位置はお調べのとおりです。

 連絡の取りようがないので、問い合わせることもできません。本当ならこのような態度は真面目に取り合わなくても良いのですが、一応現物を探して確認を取りました。(杉並区の高井戸図書館で閲覧)

  • 昭和30年代懐かしの東京
  • 2001年9月25日 初版第1刷発行
  • 監修 平井康夫 (立正大学名誉教授、前日本国際地図学会会長)
  • 企画 株式会社 平凡社 株式会社 平凡地図出版
  • 制作 株式会社 平凡地図出版 安達房枝 柿沼修次
  • 発行所 株式会社平凡社

 分かったことは以下の通りです。

  • 巻頭の凡例の箇所に、「昭和30年代地図の追加注記は、基図の発行年月とは関係なく、昭和30~39年に存在したもの」という説明がある
  • 64~65ページに「基図は昭和34年発行の1/1万地形図」とする西新宿の地図が記載されている
  • この地図には、当該書籍出版時に追加記載されたと思われる文字が追加されている (書体や鮮明さが明らかに違うので明確に区別できる)
  • この地図上で、淀橋浄水場の西に「野球場」と書かれた施設が描かれている (基図にあった文字と思われる)
  • 更にその上に、「東京生命保険相互会社運動場」という文字が追加されている (当該書籍出版時に追加と思われる)
  • 68ページの本文に「昭和30年代ここには小西六写真工場や東京生命保険相互会社の運動場があった」とある

 以上から私が言えることは以下の点だけです。

  • 対象の表記が「東京生命保険相互会社運動場」と「東京生命保険相互会社の運動場」と揺れている。「の」の有無があり、一貫していない。つまり「東京生命保険相互会社運動場」という名称の施設が存在したのか、それとも「東京生命保険相互会社」が所有する運動場であり他の名称(たとえば東京生命球場)を持つのか明確ではない
  • 地図上に「野球場」とあるのに追記は「運動場」とある。両者が同じものを示しているのか、それとも時期によって「野球場」から「運動場」に変わったのか明確ではない (そもそも地図と追記された文字の年代が必ずしも一致しないことが断られている)
  • 参考文献が無く、記述の根拠を確認できない

それ以前の問題 §

 非常に基本的は話になりますが、以下の2つは全く別物です。

  • ある書籍に掲載された当時の地図にその施設の名前が書き込まれている
  • ある書籍に掲載された地図にその施設の名前が書き込まれている

 公式に作成された地図は、そのような地図が持つ制限事項(戦時改描、出版までのタイムラグ、ミスが入り込む可能性、等々)を踏まえて使う限り、一定の信頼を置いて良いと考えています。ですから、このような地図上に、「東京生命球場」ないしそれに該当する野球場にそれに類する名前が書き込まれているのを見た場合、私はそれなりに納得したと思います。

 しかし、このケースでは「公式に作成された地図」をベースにしているとはいえ、問題となっている情報は書籍出版時の追記です。しかも、かなり年代の下った後年の追記です。これは、明確な2次情報です。2次情報であれば他にもいろいろあるので、その水準の情報は求めていません。(あれば傍証になるが)

欲しいものは何か §

 というわけで。

 この件で私が期待するのは、たとえば以下のようなものです。

  • 当時の公的な地図に名称が記載されている
  • 社史などに位置と名称が記載されている
  • 他の当時の公的な文書等に位置と名称が記載されている
  • その他、1次史料と呼ぶに値する史料に位置と名称が記載されている
  • 実際にその球場を見てきて、それがどうだったかの体験談

 逆に、以下のようなものは、現状では求めていません。

  • 単に野球場が写っているだけの写真 (もっとも、古い新宿近辺の写真を見るのは大好きなので、そのような趣旨で見せてくれることは拒まない)
  • 伝聞による体験談 (自分は体験していない話。ただし、重要なヒントが含まれる場合は別)
  • 後年に執筆された書籍よりの言及 (ただし、1次史料の明確な引用があるものは除く)

感想 §

 「昭和30年代懐かしの東京」という書籍そのものは、今ここで扱っているような追求の手段ではなく、一般向けの歴史娯楽的な意図で書かれたものでしょう。そういう意味では良くできていると思うし、広く浅くいろいろな話題を拾っていて面白いと思います。けして悪い本では無いと思います。むしろ、地図上に写真の撮影位置を示す等、良いところも多い本だと思います。

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